『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』:厳しく残酷な、でも、普遍的夫婦のありよう:Myムービー掲載
アルツハイマー症は、いまのところ、進行は止めることはできても、元に戻るという意味では、決して治癒しない病気とされている。
したがって、「アルツハイマー症を題材にしている限り、ハッピーエンドはありえない」とインタビューで応えているサラ・ポーリー監督の言葉は重いものがある。
それを踏まえてこの映画を観ると、夫婦愛を謳歌するだけの映画ではない、ということが判る。
物語はこうだ。
結婚45年を経た夫ブラントと妻フィオーナ。二人は若くして結婚した。
妻はまだ18歳だった。夫は若く新進気鋭の大学教授、若い時分は随分と放蕩生活をした。
概ね20年の結婚生活を経て、放蕩生活を悔いた夫は大学教授の職を辞し、湖の傍の住宅で妻を労わり生活をしてきたが、妻がアルツハイマー症に罹っていることが判る。
まだ症状が軽いと思われたが、妻は自ら介護施設に入所することを決意する。
時間軸どおりに説明すると、上のとおりなのだが、映画は時間軸を交叉させて描いていく。
つまり、
1.妻がアルツハイマー症であることを自覚して施設に入っていく物語
と
2.症状が重くなって、夫が妻と親しくした男性の実家(男性は既に退所している)の許へ自動車で向かう夫
を交互に描いていく。
この時間軸が若干判りづらい。
2.の途中途中で、夫が、まだ発症する前の妻と過ごした様子が挿入されるからだ。
そんな、時間軸の煩わしを我慢していくと、新たな展開を迎える。
施設に入居している間に、妻は施設で自分よりも症状の重い男性に好意を抱いていき、夫の存在を忘れていく。
そして、夫は、そんな妻の様子を観て、若い頃の放蕩を思い出し、自分を罰していると感じていく。
この映画の見所は、そのような夫婦のありようである。
映画の早い段階で、まだ発症する前の妻と暮らした時のことを夫が思い出すシーンに次のようなシーンがある。
夫が妻に寝物語として本を読み書かせる。
その一節に「新しい文化に出会ってそれを受け容れられず、理解できずにコミュニケーションができない」というような旨の文があり、妻はそれを評して「夫婦みたいね」という。
さて、自分よりも症状の重い男性に好意を抱いた妻は、夫の言うことを受け容れられずに「あなたは私に混乱をもたらすだけ。私は彼と居ると落ち着くの」という。
妻はアルツハイマー症が進むことで、和み落ち着く存在だけを受け容れるようになる。
元の夫は、和み落ち着く存在と同時に混乱と矛盾の存在だったから。
そうなのだ。
この映画で描いているのは夫婦愛ではなく、和み落ち着く存在と同時に、混乱と矛盾も抱えている夫婦の姿なのだ。
そんな夫婦を普遍的な夫婦と捉えている。
夫にとって妻は割り切れる存在ではない。当然、妻にとって夫も割り切れる存在ではない。
夫ではない男性を愛おしい存在として認知した妻の症状は、その男性が退所することで病状が悪化する。
夫が自動車でその男性の実家へ向かうのは、その男性の妻に再び男性を施設に戻してもらおうと算段するためだ。
しかしいつしか、アルツハイマーの妻を抱えた夫と、アルツハイマー症の夫を抱えた妻は、互いを受け入れ、和み落ち着く存在、新たな人生の伴侶として選んでいく。
この映画では、妻も夫も、それぞれ和み落ち着く存在を見つけて新たな人生を迎えていくことを是として描いていく・・・・・
が、最後の最後に厳しく残酷な、それでいて普遍的な夫婦の姿を映し出す。
それぞれの人生を是として再び妻の許を訪れた夫は、そこで、突然、妻が昔のことを思い出すのに遭遇する。
まだ、放蕩の前、妻が夫に求婚したころのことを。
症状が進んでも、美しい頃の二人を思い出す妻の姿を、夫婦愛の徴しとは捉えることはできない。
「アルツハイマー症を題材にしている限り、ハッピーエンドはありえない」サラ・ポーリー監督はインタビューで応えているのだから。
サラは続いてインタビューに応えている。「それでも、ふたりの時間が少しでも長く続けばいいとも思った」と。
その応えの中には、無意識の残酷さが潜んでいる。
エンディングがニール・ヤングの「Helpless」なのも心にずしりと来るものがある。
美しい光と焦点深度を工夫した映像、そしてスライドエレキギターの美しい調べ。
そんな美しい画面づくりに誤魔化されそうになる、厳しい映画に★4つを進呈します。
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この記事へのコメント
誰が悪いというわけではないのですが、「やはり男は勝手だよな、昔も今もそして未来も勝手な男はずっと勝手なのだ」とチラッと思ってしまいました。