『寝ても覚めても』: 死神に魅入られた女性の話 @ロードショウ・単館系

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超長尺映画『ハッピーアワー』の濱口竜介監督の商業映画第1作『寝ても覚めても』、ロードショウで鑑賞しました。
『ハッピーアワー』は未見なので、濱口監督作品を鑑賞するのは本作が初めて。
さて、映画。

大阪で暮らす大学生の朝子(唐田えりか)。
ある写真展で、風変わりな青年・麦(ばく・東出昌大)と出逢い、突然の恋におちる。
数か月交際したある日、麦は「靴を買いに行く」と言ったきり、朝子の前から姿を消してしまう。
失意の朝子は東京に引っ越し、2年経ったある日、麦そっくりの会社員・亮平(東出昌大・二役)と出逢う・・・

というところから始まる物語は、同じ姿かたちをした男性ふたりの間で揺れ動く女性の心を繊細に描く映画・・・と想像したけれども、はじまってすぐにそんな普通の恋愛映画じゃないな、という予感が走る。

とにかく、麦の行動の様子が尋常でない。
この世の者とは思えない。
ひとめ惚れで恋におちた朝子もヘンな感じがする(台詞が棒読みなので、ただの下手っぴいにしか見えないかもしれないが)。
で、ふたりで出かけたオートバイ旅行で、事故に遭って・・・

と、この事故のシーンのカット割りと、その後、事故では何でもなかったと続くあたりで、ははんと気づいた。

これは、「恋」という名の死神に魅入られた女性の話なのだ、と。
姿を消す前に麦は、「必ず朝ちゃんのもとへ帰ってくるから」と言い遺すのは、「死神」が「どこそこの街で必ず待っている」と告げる外国の古い話にソックリ。

死神は去って、生きている男性・亮平と出逢った朝子は、彼と距離を置こうとする。
またもや死神かもしれないから。
しかし、そこへ訪れる大震災。
それは、生と死のはざまであり、朝子は「生」の側に傾き、幸せな生活を送るが、やがて、約束どおり「死神」は帰って来、朝子は死の国へ連れていかれそうになる・・・

震災を、その被災地を生と死のはざまとして描き、両側を堤防が経つ賽の河原で、朝子は生の世界に戻ってくるが、一度(比喩的に)死んだ身の朝子と、生き続けていた亮平との間は、この後うまくいくかどうかはわからない・・・

そんな内容の映画。
そう感じて、総毛立ちました。

終盤、驟雨の中での朝子と亮平の追いかけあいのシーン。
横移動で駆けるふたりをそれぞれとらえたあと、ふたりが点景になるまでロングで引いたシーン、追いかけるふたりの周囲は黒雲の下で陰になっており、手前は明るく陽が差している・・・
このロングショット!
こんなショット、狙ってもなかなか撮れない、奇跡のようなシーンです。

恋愛映画のジャンルを超えた、別のジャンルの映画を観たように感じました。

評価は★★★★☆(4つ半)としておきます。

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2018年映画鑑賞記録

新作:2018年度作品:57本
 外国映画47本(うちDVDなど 1本)
 日本映画10本(うちDVDなど 0本)←カウントアップ

旧作:2018年以前の作品:56本
 外国映画49本(うち劇場鑑賞10本)
 日本映画 7本(うち劇場鑑賞 1本)
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この記事へのコメント

ぷ~太郎
2018年11月19日 16:18
むふふ、死神の話ですか。なるほどね。でもそう大げさにとらなくてもという気がします。まあ、「恋とはこういうもの」としか言いようがありません。わかりやすく同じ顔をした男二人をだしただけで、一目ぼれってこんなものなんでしょう。恋は理屈じゃないということです。朝子の行動はものすごく身勝手だけど、それを一旦うけいれた亮平も朝子に芯から惚れてたからで、それなら心の広さを示してこれから二人で生きて行ってほしいと思いました。関係ないけど、麦の何物にも捉われない生き方がすごく羨ましく、すがすがしいとさえ思いましたよ。
2018年11月19日 22:13
ぷ~太郎さん、麦=死神といっているわけではないのですが・・・
究極の恋は、逃れられないという意味では死と同等、そうなっちゃえば、理屈もへったくれもない、ってことなんですけど。
最近は「狂おしいほどの恋心」とか「究極の恋」といっても、ホントに狂っちゃうようなひとが主人公の映画なんてもありませんし・・・

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