『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』:トリック、サスペンスのみならず、詩情も感じさせる一篇 @DVD
ことし1月にロードショウされた『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』、DVDで鑑賞しました。
「くにんの~」ではなく、「きゅうにんの~」と読みます。
予告編でも言っていました。
文章や図表などの印刷物を音声にして説明する「音訳家」にとっては難物タイトルです。
さて、映画。
フランス発の世界的ベストセラー『デダリュス』三部作の完結編の出版権を、前2作に続いて手に入れた出版社社長エリック・アングストローム(ランベール・ウィルソン)。
世界同時出版のため、9人の翻訳家がある秘密の場所に集められ、外部との接触を断たれた、半ば監禁状態で翻訳作業が進められる。
が、しばらくして、翻訳中の作品の冒頭がネット上に開示。
犯人から続き部分を開示されたくなければ、多額の身代金を払え、という要求がエリックのもとへ届く・・・
といったところから始まる物語で、劇中で翻訳されている小説が三部作であるように、映画も序破急の三幕構成となっています。
序 先に示したとおり、犯人からの脅迫、とそれに続く、翻訳家内での疑心暗鬼
破 犯行の手口
急 真相と動機
といったところです。
ふーん、中盤で『めまい』のようにネタばらしをするのね、と侮ってかかると・・・
おっと、これ以上は書かないことにします。
前半、いくつか伏線が張られており、
『デダリュス』の作家は覆面作家であり、会っているのはエリックひとりである。
翻訳家のひとり、英語担当が、前2作を独自で英語翻訳をして、ネット上で開示させたことがある。
さらに、彼は、第3作の冒頭を予想していた・・・
ということなので、まぁ、早い段階で犯人は見当がつくのですが、見当がついたからといって映画の面白さが損なわれることがないほど脚本がヒネられています。
演出もヒッチコックばりで、
序盤のロシア語担当者が作品の続きをエリックのブリーフケースから奪おうとして、暗証番号を後ろ手で操作するスリリング描写。
中盤の犯行手口をみせる際のタイムリミットサスペンス描写
と、感心することしきりです。
で、そんなサスペンス描写だけでなく、「真相と動機」の章に至って、『華氏451』ばりに文学への愛があふれ出します。
引き合いに出されるのはプルーストの『失われた時を求めて』ですが、終局近くにポール・ヴァレリーの有名な詩の一節が引用されます。
Le vent se lève, il faut tenter de vivre.
堀辰雄の訳、「風立ちぬ いざ生きめやも」で有名な一節です。
字幕では、よりわかりやすく、「風が吹いた さあ生きることを試みようではないか」という風に訳されていました。
ラストカットは、まさにこの詩の一節のとおり。
「いざ生きめや」と決意した人間の姿を捉えるところで終わります。
トリック、サスペンスのみならず、詩情も感じさせる一篇でした。
評価は★★★★(4つ)としておきます。
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2020年映画鑑賞記録
新作:2020年度作品: 50本
外国映画41本(うちDVDなど12本)←カウントアップ
日本映画 9本(うちDVDなど 0本)
旧作:2020年以前の作品: 63本
外国映画39本(うち劇場鑑賞 4本)
日本映画24本(うち劇場鑑賞 2本)
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この記事へのコメント
あと、何語があればいいかなぁ・・・
日本語のマーケットが狭いことだけは確かですね。