『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』:ジョーンズを衝き動かしたものは・・・ @DVD

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昨年8月に公開されたアグニェシュカ・ホランド監督作品『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』、DVDで鑑賞しました。
自宅鑑賞するにはちょっと重いかも・・・とは思いつつ、観たかった見逃し作品なので、やはり鑑賞せねばなりますまい。
さて、映画。

世界大恐慌吹き荒れる1933年。
そんな中でもスターリン率いるソ連だけが繁栄を謳歌している・・・
ナチスドイツ率いるヒトラーとのインタビュー経験のある英国外交補佐官ガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)は、そのことに疑問を抱いていた。
しかし、彼の心配をよそに、ジョーンズ外交補佐官の職を馘首されてしまう。
ひとりのジャーナリストとして、単身、ソ連・モスクワに向かうが、頼りにしていた旧知の記者は彼の訪ソ直前に事故死したという。
死んだ記者と懇意だったニューヨークタイムズの女性アシスタント、エイダ(ヴァネッサ・カービー)は、死んだ記者はウクライナの地に赴こうとしていたとジョーンズに語った。

ウクライナ・・・
それは、ジョーンズの母の生まれた地、肥沃な大地、そしてニューヨークタイムズの駐ソ局長デュランティ(ピーター・サースガード)が「ウクライナの穀倉地帯はスターリンのゴールド」と語った土地だった・・・

といったところから始まる物語で、ここまでで中盤まで。

その後、ジョーンズはソ連の監視員の目を盗んで単身ウクライナの地に到達し、そこで大飢饉(ホロドモールと称されている)の様子を目の当たりにすることになります。

映画的には、ウクライナへ向かう一般市民の乗る列車の中から画調が変わります。
それまでの、ねっとりしたような厚み・深みのある色調から、銀残しを思わせるくすんだ、ほとんどモノクロームのような色調です。

子どもたちが歌う暗く沈んだ歌声と、抑えた演出でみせる基金の様子。
雪に覆われた外のそこかしこに野垂れ死にの死体が横たわり、田舎道の斃死体は荷馬車を曳いた男がまだ生きている幼児とともに拾い上げていく。
なんのために・・・と思うと、その後のエピソードで明らかになります。

朽ちかけた小屋で暮らす幼い子どもたち。
小屋に身を寄せたジョーンズに差し出された、肉の浮いたスープ。
これは?と訊くジョーンズに、年長の少女が「コーリャ」と兄の名を告げ・・・

おそろしいほどの衝撃のエピソードです。

このウクライナでの体験をジョーンズは英国に持ち帰るのですが、そこには国家間の駆け引きがあり・・・というのが終盤の展開。

映画の要所要所に『動物農場』を執筆中のジョージ・オーウェルと思わせる人物が登場するのですが、ジョーンズによるウクライナのレポートが『動物農場』として昇華されたことがわかってくるあたりは、ちょっとミステリー仕立てで面白く感じました。

ところで、ジョーンズをウクライナの地まで足を運ばせた原動力は何だったのでしょうか?

純粋にジャーナリストとしての使命感、という見方もできますが、終盤、生まれ故郷のウェールズに戻らざるを得なくなってしまった彼が父親とロシア語で話す短いシーンがあり、そこから考えると、やはり、彼の中に自分の出自・ルーツへのこだわり、アイデンティティの再確認があったと見る方が興味深いでしょう。

なお、映画理解のために主な出来事を時系列で並べると次のようになります。

1905年以前 ジョーンズの両親、ウクライナから英国に移住
1905年 ガレス・ジョーンズ、英国ウェールズにて誕生
1917年 ロシア革命
1918年 第一次大戦終結
1929年 世界大恐慌発生(30年代後半まで)
1933年 ナチスドイツ政権誕生、ソ連・ホロドモール(映画で描かれているとおり)
1935年 ガレス・ジョーンズ、満州にて死亡
1945年 第二次世界大戦終結、ジョージ・オーウェル『動物農場』出版

評価は★★★★(4つ)としておきます。

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2021年映画鑑賞記録

新作:2021年度作品: 1本
 外国映画 1本(うちDVDなど 0本)
 日本映画 0本(うちDVDなど 0本)

旧作:2021年以前の作品:10本
 外国映画 7本(うち劇場鑑賞 1本)←カウントアップ
 日本映画 3本(うち劇場鑑賞 0本)
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この記事へのコメント

じゃむとまるこ
2021年01月24日 16:55
ホロドモール・・・・人類の歴史の中で繰り返されてきた負の部分で、こういうことはなくならないのだな、という気がします。
重い映画ですが、観たいと思います,ご紹介ありがとうございます。
りゃんひさ
2021年01月24日 17:29
>じゃむとまるこさん

ホロドモールという言葉は、この映画ではじめて知りました。是非ご鑑賞くださいませ。
2021年01月24日 18:15
ホロドモールの実態を始めて描いた作品というところも、画期的で衝撃的でしたね。
重い作品でしたが、見て良かったです。
りゃんひさ
2021年01月25日 17:49
>トリトンさん

これまで知らなかったことを知るのも、映画のひとつの楽しみですね。
2021年01月26日 16:57
こちらにもお邪魔します。
おっしゃるように、ガレスを突き動かしたものは、ジャーナリストの本分に加えて、自身のルーツを確認したいという気持ちだったのかもしれませんね。
哀しみと怖さが同居している作品でした。
(…特に、寒いのが苦手なもので…)
ぷ~太郎
2021年01月26日 17:40
戦争ものは嫌いなのですが、これは興味を惹かれて観ました。で、よかったです。こういう人物がいたことを初めて知りました。主役を演じた俳優さんがまさしく適役でしたね。退廃的な雰囲気と飢餓の支配するウクライナとの対峙が見事でした。
りゃんひさ
2021年01月26日 22:03
>ここなつさん

ガレスを突き動かしたものには、やはり、自身のルーツを確認したいという思いもあった、そう思えばこその邁進ぶりだったと感じました。あ、わたしも寒いのは苦手・・・
りゃんひさ
2021年01月26日 22:06
>ぷ~太郎さん

レビューには書き損ねましたが、前半の退廃的モスクワとウクライナとの対比も興味深いところでしたね。

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