『とべない風船』:三浦と東出の無表情さが映画に奥行きを与えていますね @ロードショウ

とべない風船.jpg

東出昌大主演の映画『とべない風船』、ロードショウで鑑賞しました。
ことしに入ってからの公開ですが、2週間程度で公開終了しているところも多いようです。
公開終了と映画の出来とは関係ないですが。
さて、映画。

東京で教師をしていた30歳前の凛子(三浦透子)。
父親が定年後に移住した瀬戸内海の島にやって来る。
教師生活でうつ病になり、最近は派遣で事務をやっていたが、派遣期間も切れてしまったのだ。
何もない島での暮らしは、彼女を蘇らせるのに最適と思われたが、ストレスフリーというのもかえってストレスを溜めるのかもしれない。
そんな中、着いて早々、凛子の父のもとを訪れる無口な男性・憲二(東出昌大)と出会う。
島で漁師をしている憲二だが、妻子を数年前の豪雨災害で喪うという過去があった・・・

といったところから始まる物語で、その後、大きな事件は起きない。

島で暮らす女児が行方不明になったり、凛子の父親の持病が悪化して倒れて救急搬送したりというエピソードはあるが、それはアクセントでしかない。

映画は、心にトラウマというか大きな傷というか、そういうものを抱えた凛子と憲二が少し寄り添い、互いの傷を分かり合う、ただそれだけの物語として帰結する。

「ただそれだけ」と書いたが、ただそれだけで映画を作るのは難しい。
難しいのだけれど、この映画ではそれが成立している。

理由は、三浦透子と東出昌大、ふたりの無表情さ、ある種のかたくなさ、ハードボイルドの面持ちにある。
こわばった表情の中に、観るものを同化させるというか、そういうものがふたりにあるように感じます。

このハードボイルドの無表情さが、終盤の東出演じる憲二の嗚咽のシーンを際立たせており、彼のどうしようもない感情のほとばしりをみることによって、凛子はふたたび教職に戻る決意を得るのだが、ほんとうにこのシーンは素晴らしい。
東出の嗚咽もさることながら、それをみている三浦の(なにもしない)演技がいいのだ。

と、物語としてはそれほどでないが、三浦と東出の等身大の人物像が胸を打ちました。

撮影機材がお粗末な感じで、若干、映像的に緩いのが難なのだが、そこいらあたりは目をつむることとしましょう。

評価は★★★★(4つ)としておきます。

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2023年映画鑑賞記録

新作:2023年度作品: 3本
 外国映画 0本(うちDVDなど 0本)
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旧作:2022年以前の作品: 6本
 外国映画 1本(うち劇場鑑賞 0本)
 日本映画 5本(うち劇場鑑賞 0本)
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